大変申し訳ございませんが、担当弁護士の予定が一杯のため、現在、労働災害のご相談はお受けすることができません。
Q&A
頸椎捻挫などの労災事故
派遣元会社から派遣先会社の工場へ派遣されていた派遣労働者Aは,工場内で,普段車両が通らない場所を清掃していたところ,Xが運転する後退してきたフォークリフトが,Xの操作ミスによりAに衝突しました。
フォークリフトに衝突されたAは5mほど跳ね飛ばされ,その結果,頸椎捻挫および腰椎捻挫の怪我を負ってしまいました。
怪我をした後,救急車で病院に運ばれて,7か月間の通院加療が必要となりました。
- Q1 労働者Aは,どこの会社が加入する労災保険を利用することになるのでしょうか?
- Q2 労災保険からどのような補償を受けることができるのでしょうか?
- Q3 症状固定について教えてください
- Q4 後遺障害について教えてください
- Q5 どのような後遺障害が認められる可能性があるでしょうか?
- Q6 具体的な補償額を教えてください
- Q7 労災保険の補償以外に,何か請求できるものはありますか?
- Q8 民事上の損害賠償請求の具体的な補償内容を教えてください
- Q9 労働者Aは, 誰に賠償請求すれば,どのようなものがもらえるのでしょうか?
Q1 労働者Aは,どこの会社が加入する労災保険を利用することになるのでしょうか?
派遣労働者は派遣元会社の労災保険を利用します
派遣労働者の労災保険の利用について,行政通達では,派遣元事業主の労災保険を利用することと定めています(昭61.6.30基発第383号)。
したがって,派遣労働者は,派遣先会社(例えば派遣先の職場など)の労災保険ではなく,派遣元会社の労災保険を利用します。
Q2 労災保険からどのような補償を受けることができるのでしょうか?
以下の補償を受けることができます
1 治療費や交通費など
被災によって負傷した場合,その治療費や交通費は労災保険から補償を受けることができます。これを療養補償給付といいます。
療養給付の具体的な支給内容としては,診察代など病院への治療費,薬代,手術費用,通院交通費などが挙げられます。
2 休業補償
被災によって,仕事を休業しなければならず,そのため収入が得られなかった場合,その分についての休業補償を受けることができます。これを休業(補償)給付といいます。
休業補償給付は,日給(給付基礎日額)×補償の対象日数×60%になります。また,特別支給金として給付基礎日額の20%が支払われます。
なお,労災保険からの休業(補償)給付は,休業初日から補償を受けられるわけではありません。
すなわち,初日から通算して3日間の待期期間は労災保険からの補償対象外になりますので,労災保険から補償を受けるのは4日目以降の休業についてとなります。
労災保険補償を受けられない待期期間の休業補償については,業務中の災害であれば,労働基準法上の規定に基づき,事業主(派遣元会社)が補償の支払義務を負います。
Q3 症状固定について教えてください
症状固定に至ると治療費や休業補償は打ち切りになる
治療費や交通費,休業補償は,完治するまで必ず補償されるわけではなく,症状固定に至った場合には補償は打ち切りとなります。
症状固定とは,治療を受けても怪我の症状がよくならない状態や,治療の効果が一時的で症状が一進一退になっている状態をいいます。
言い換えれば,治療により症状が右肩上がりでよくなっていれば,症状固定ではなく,補償を受けることができます。
しかし,治療によっても効果が一時的で症状が一進一退な状態であれば,補償が打ち切られ,その後の治療は自己負担となります。
Q4 後遺障害について教えてください
症状固定後の症状については後遺障害としての補償を受けます
症状固定後の症状については,治療をしても残存した後遺障害として,その障害の程度に応じて,障害(補償)給与を受けることになります。
障害(補償)給付は,障害等級表(労災保険法施行規則別表第一)の等級表に従い,障害の程度に応じて,年金か一時金が支給されます。
Q5 どのような後遺障害が認められる可能性があるでしょうか?
頸椎捻挫および腰椎捻挫による痛みや痺れの等級
後遺障害頸椎捻挫が後遺障害として等級認定される場合は、2つの可能性があります。
ひとつは、「局部に神経症状を残すもの」という14級9号、もうひとつは、「局部に頑固な神経症状を残すもの」という12級13号です。
Q6 具体的な補償額を教えてください
具体的な補償は,等級に従い,以下のとおりです。
後遺障害等級 | 障害(補償)一時金 | 障害特別支給金 | 障害特別一時金 |
---|---|---|---|
12級 | 給付基礎日額の156日分 | 20万円 | 算定基礎日額(事故前1年間のボーナスを365日で割ったもの)の156日分 |
14級 | 給付基礎日額の56日分 | 8万円 | 算定基礎日額の56日分 |
Q7 労災保険の補償以外に,何か請求できるものはありますか?
使用者等に対して民事上の損害賠償請求をすることで十分な補償を受ける必要があります。
労災保険の補償では,慰謝料の補償はありません。
また,休業補償や後遺障害による逸失利益の補償が不十分な場合もあります。
したがって,労災保険の補償があった場合でもそれでは十分な補償を受けたことにはなりません。
Q8 民事上の損害賠償請求の具体的な補償内容を教えてください
以下の補償内容があります。
1 治療関係費用
被災による治療費,通院交通費が挙げられます。
2 休業損害
被災により仕事を休業した場合の補償です。
3 後遺障害逸失利益
後遺障害が残ってしまったことにより,将来の収入の低下が見込まれる場合に,その障害が仕事に与える支障の程度等に応じて,補償されるものです。
4 傷害慰謝料
被災により怪我を負った場合,それによる精神的苦痛に対する補償です。後遺障害が残らず完治した場合でも支払われます。
5 後遺障害慰謝料
後遺障害が残ってしまった場合は,傷害慰謝料に加えて,等級に応じて,後遺障害に対する慰謝料の補償を受けることができます。
Q9 労働者Aは, 誰に賠償請求すれば,どのようなものがもらえるのでしょうか?
フォークリフトを運転していたX,派遣先会社に対して,民事上の損賠賠償請求ができる可能性があります。また,派遣元会社に対しても民事上の損賠賠償請求ができる可能性もあります。
1 フォークリフトを運転していたXに対して
Xは,フォークリフトの操作を誤ったがために,Aに怪我を負わせているので,Aに対して民法上の不法行為責任を負います。
したがって,Xに対して民事上の損害賠償請求ができます。
2 派遣先会社に対して
⑴ Xの使用者としての責任
Xが派遣先会社の従業員等である場合には,派遣先会社はXの使用 者として,Aに対して使用者責任を負います。
この場合には,派遣先会社に対して民事上の損害賠償請求ができます。
⑵ Aに対する安全配慮義務
Xと派遣先会社との間に何らの指揮命令関係が存在しない場合でも,派遣先会社に対して民事上の損害賠償請求ができる可能性があります。
すなわち,派遣社員は本来派遣先会社と何らの雇用関係は存在しません。
しかしながら,裁判例では,一定の場合に,派遣先会社は,派遣社員に対して,作業時における派遣社員の生命・身体・健康を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を負うと判断しています(東京高判平成21年7月28日参照)。
この安全配慮義務の具体的な内容は,「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(平成11年労働省告示第138号)等の法令や行政通達を踏まえて,具体的に判断することになります。
今回のケースでも,派遣先会社が,Aに対して工場内で普段車両が通らない場所を清掃させる労務に従事させるあたり,Aがフォークリフトに衝突されるなどの危険から保護するための教育訓練・適切な人員や物的設備の配置を怠る事実があり,それが法令や行政通達に違反する事実がある場合には,派遣先会社はAに対して安全配慮義務違反に基づく責任を負います。
したがって,この場合には,Aは,派遣先会社に対して,民事上の損害賠償請求ができます。
3 派遣元会社の安全配慮義務
派遣元会社は,労働契約を締結しているAに対して,労働契約法第5条に基づく安全配慮義務を負っています。
裁判例の中には,派遣社員が派遣先会社で業務を行うにあたり,派遣元会社は,派遣社員の就労状況を常に把握し,過重な業務等が行われる恐れがあるときには,派遣先会社に対してその差し止めあるいは是正を求め,必要に応じて派遣を停止するなどして,派遣元会社も,派遣社員に対して,被害を予防する注意義務があることを認めた裁判例もあります(派遣先会社において過重労働で自殺した社員について東京高判平成21年7月28日)。
したがって,派遣元会社も,個別具体的なケースにおいて,安全配慮義務違反が認められる場合もあり得,その場合には,Aは,派遣元会社に対して,民事上の損害賠償請求ができます。