大変申し訳ございませんが、担当弁護士の予定が一杯のため、現在、労働災害のご相談はお受けすることができません。
Q&A
転落事故
建設現場で足場を組んでいたところ,元請会社甲が足場に重機をあててしまい,足場が崩れてしまいました。
足場に乗っていた下請会社乙の従業員Aと下請会社の社長Bが,双方とも鎖骨を骨折する怪我を負ってしまいました。
怪我をした後,救急車で病院に運ばれて,2か月の入院と6か月間の通院加療が必要となりました。
- Q1 従業員Aと社長Bは,どこの会社が加入する労災保険を利用することになるのでしょうか?
- Q2 労災保険からどのような補償を受けることができるのでしょうか?
- Q3 鎖骨を骨折した場合に,どのような後遺障害が認められる可能性があるでしょうか?
- Q4 労災保険の補償以外に,何か請求できるものはありますか?
- Q5 元請会社に損害賠償請求をした場合,どのようなものがもらえるのでしょうか?
- Q6 下請会社に損害賠償請求をした場合,どのようなものがもらえるのでしょうか?
Q1 従業員Aと社長Bは,どこの会社が加入する労災保険を利用することになるのでしょうか?
1 通常の場合
労働災害に遭って労災保険を利用する場合,通常は,勤め先の会社の労災保険を使うことになります。
しかし,勤め先の会社以外の労災保険を利用すべき例外的な場合もあります。
2 建設現場における例外
建設現場においては,労災保険の取り扱い上,その現場における各下請会社と元請会社が一つの事業体とみなされ,元請会社が当該建設現場の労災保険加入手続を行い,保険料を負担することになります。
そのため,建設現場で労働災害が発生した場合は,その建設現場における元請会社の労災保険を利用することになります。
3 従業員Aが利用する労災保険
従業員Aは下請会社乙の従業員ですが,建設現場における事故ですので,当該建設現場の元請会社甲の労災保険を利用することになります。
4 社長Bが利用する労災保険
⑴ 労災保険の被保険者の範囲
労災保険は,「労働者」の業務災害・通勤災害に対する補償や救済を目的とするものです。
そのため,労働者にあたらない社長Bは,労災保険の対象とならないのが原則です。
⑵ 労災保険の特別加入制度
もっとも,労災保険には,特別加入制度というものがあります。
労災保険の特別加入制度とは,労働者にあたらない方でも,業務の内容や危険の程度によって労働者に準じて保護することが相当であるとされる方に,労災保険への加入を特別に認めるという制度です。
したがって,社長Bが労災保険の特別加入制度を利用して,労災保険へ加入している場合には,労災保険を利用することができます。
Q2 労災保険からどのような補償を受けることができるのでしょうか?
1 療養補償給付
労働災害によって負った傷病等に対する治療費や薬代等の費用に 関する給付のことを,療養補償給付といいます。
なお,治療費については,労災が指定する医療機関で治療する場合には,窓口での負担なく無料で治療を受けることができます。
他方,指定の医療機関以外で治療した場合には,一旦は治療費全額を支払う必要がありますが,後に領収書等を添付して請求をすれば,負担した治療費の支給を受けることができます。
2 休業補償給付
労働災害による負傷のために働くことができず,勤務先から賃金をもらえないときに受けることのできる給付のことを,休業補償給付といいます。
休業補償給付の内容は,給付基礎日額(原則として,傷病が発生した日の直前3か月間の賃金の総支給額を日割り計算した金額となります)の60%となります。
休業に関する補償としては,休業補償給付の他に,休業特別支給金というものもあり,給付基礎日額の20%の給付を受けることができます。
3 障害補償給付
労働災害によって負った傷病の治療を続けたにもかかわらず後遺 障害が残ってしまった場合に,その障害の程度に応じて受け取ることができる給付のことを障害補償給付と言います。
後遺障害の等級は1級から14級まであり,1~7級の場合は,障害補償年金,障害特別年金,障害特別支給金が,8~14級の場合は,障害補償一時金,障害特別一時金,障害特別支給金が,下表のとおり給付されることとなります。
後遺障害等級 | 障害補償年金 | 障害特別支給金 | 障害特別年金 |
---|---|---|---|
第1級 | 給付基礎日額の313日分 | 342万円 | 算定基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 | 320万円 | 算定基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 | 300万円 | 算定基礎日額の245日分 |
第4級 | 給付基礎日額の213日分 | 264万円 | 算定基礎日額の213日分 |
第5級 | 給付基礎日額の184日分 | 225万円 | 算定基礎日額の184日分 |
第6級 | 給付基礎日額の156日分 | 192万円 | 算定基礎日額の156日分 |
第7級 | 給付基礎日額の131日分 | 159万円 | 算定基礎日額の131日分 |
障害補償一時金 | 障害特別支給金 | 障害特別一時金 | |
第8級 | 給付基礎日額の503日分 | 65万円 | 算定基礎日額の503日分 |
第9級 | 給付基礎日額の391日分 | 50万円 | 算定基礎日額の391日分 |
第10級 | 給付基礎日額の302日分 | 39万円 | 算定基礎日額の302日分 |
第11級 | 給付基礎日額の223日分 | 29万円 | 算定基礎日額の223日分 |
第12級 | 給付基礎日額の156日分 | 20万円 | 算定基礎日額の156日分 |
第13級 | 給付基礎日額の101日分 | 14万円 | 算定基礎日額の101日分 |
第14級 | 給付基礎日額の56日分 | 8万円 | 算定基礎日額の56日分 |
Q3 鎖骨を骨折した場合に,どのような後遺障害が認められる可能性があるでしょうか?
1 鎖骨に著しい変形が残ってしまった場合
鎖骨を骨折したことにより,鎖骨に「著しい変形」が残ってしまった場合は,第12級5号の後遺障害が認められます。
なお,「著しい変形」とは,裸体になったときに変形が明らかにわかる程度のものであることを意味します。
2 鎖骨を骨折したことにより肩の機能障害が残った場合
鎖骨を骨折したことにより,肩関節に機能障害が残った場合,下表のとおり,機能障害の程度に応じて,後遺障害の認定がなされることとなります。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
Q4 労災保険の補償以外に,何か請求できるものはありますか?
労災保険から各種給付金を受け取ることができたとしても,それだけでは発生した損害をすべて補うことができない場合もあります。
このような場合,労働災害の発生について,元請会社や下請会社に過失や安全配慮義務違反があれば,これらの会社に対して,労災保険だけでは補い切れなかった損害の賠償請求を行うことができます。
Q5 元請会社に損害賠償請求をすれば,どのようなものがもらえるのでしょうか?
1 元請会社が損害賠償責任を負うための要件
元請会社甲と下請会社乙の従業員Aとの間には,直接の契約関係がありません。
そのため,「使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする。」と規定している労働契約法第5条を根拠に,従業員Aに対する元請会社甲の安全配慮義務を導くことはできません。
もっとも,実務上は,元請会社と下請会社の従業員の間に直接の契約関係がない場合でも,「雇用契約の当事者の関係と同視するに足りる特別な関係」が存在する場合は,元請会社は,下請会社の従業員に対し,その生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするという安全配慮義務を負うとされる傾向にあります。
そして,元請会社甲がこの安全配慮義務を怠ったことが原因で,従業員Aに損害が生じた場合,元請会社甲に,従業員Aに対する損害賠償責任が生じます。
2 元請会社から受けることのできる損害賠償の内容
元請会社側に損害賠償請求をした場合,例えば,以下のような損害に対する賠償金を受け取ることができる可能性があります。
①治療費
②通院交通費
③入院雑費
④付添看護費
⑤装具購入費
⑥休業損害
⑦慰謝料
⑧後遺障害が残ったことによる逸失利益
Q6 下請会社側に損害賠償請求をすれば,どのようなものがもらえるのでしょうか?
1 下請会社が損害賠償責任を負うための要件
下請会社乙と従業員Aとの間には,直接の雇用契約関係がありますので,下請会社乙は,労働契約法第5条に基づき,従業員Aの生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとするという安全配慮義務を負います。
下請会社乙がこの安全配慮義務を怠ったことが原因で,従業員Aに損害が生じた場合,下請会社乙に,従業員Aに対する損害賠償責任が生じます。
2 下請会社から受けることのできる損害賠償の内容
下請会社側に損害賠償請求をした場合に受け取ることができる可能性のある賠償金の項目は,元請会社に対して損害賠償請求をする場合と同様です。
元請会社と下請会社の双方に損害賠償責任が認められる場合は,元請会社と下請会社が連帯して賠償義務を負うことになります。
労災の休業補償はいつ支払われますか? 頸椎捻挫などの労災事故